このページでは、ヤンバルクイナの歴史を見てゆきます。1981年の新種記載発表後判明したことですが、新種として認識される以前から、山仕事をされている方の中にこの鳥をご存じの方もいらっしゃいました。従来から「アガチ(慌てもの)」「ヤマドゥイ(山鳥)」といった名前で呼ばれていたのです。また、バードウォッチャーの方が羽毛を拾得していた例や、録音や写真撮影されていた例もありました。新種記載後、地元沖縄県のシンボル的な鳥として、たいへん有名になりました。
1964年 | 鳥声録音家の蒲谷鶴彦氏が西銘岳で声を録音。種不明のため「変な声」とメモ。 | |
1973年 | 野鳥愛好家の大塚豊氏が与那覇岳で死体を拾得。種不明の鳥として羽毛を保管。 | |
1975年 | 写真家の儀間朝治氏が成鳥の写真を撮影,種不明のまま保管。 山階鳥類研究所の研究員が「飛べない鳥」のうわさを聞く。 |
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1978-80年 | 山階鳥類研究所の研究員が与那覇岳で不明のクイナ類を目撃。 | |
1981年 | 山階鳥研のチームが成鳥、幼鳥各1羽の捕獲に成功。新種「ヤンバルクイナ」として記載発表。 沖縄県の天然記念物に指定。 |
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捕獲以前に目撃した時のスケッチ | ||
ヤンバルクイナの捕獲チーム。左から3人目が真野氏、右端が尾崎 (安部直哉氏・提供) |
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1982年 | 国指定天然記念物(文化庁)。 特殊鳥類(環境庁)。 |
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1983年 | 環境庁がヤンバルクイナの分布域と生息状況を調査(特殊鳥類調査)。 | |
1984年 | ヤンバルクイナの巣が発見される。 | |
1985年 | 推定個体数約1800羽(環境庁、特殊鳥類調査)。 | |
1991年 | 環境庁レッドデータブックで絶滅危惧種。 | |
1993年 | 国内希少野生動植物種(種の保存法)指定(環境庁)。 原戸鉄二郎氏と尾崎清明が分布の南限が北上傾向にあると指摘(山階鳥類研究所研究報告25(1))。 |
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1995年 | 山階鳥類研究所が沖縄県宜野湾市でヤンバルクイナシンポジウム開催。 | |
1999年 | やんばる野生生物保護センター開館(環境庁)。 | |
2000年 | 沖縄県がマングースの捕獲事業を開始。 | |
2001年 | DNA分析でネコによるヤンバルクイナの捕食を証明(山階鳥研)。 国際自然保護連合(IUCN)のアジア版鳥類レッドデータブックで絶滅危惧種に指定。 山階鳥類研究所と沖縄県の調査によりヤンバルクイナの分布の南限が15年で約10km北上したことが判明。推定生息数約1220羽(山階鳥研・沖縄県)。(山階鳥類学雑誌 34(1)) |
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2002年 | 環境省がマングースの捕獲事業を開始。 安田(あだ)区ネコ飼養に関する規則施行。 ヤンバルクイナたちを守る獣医師の会発足。 環境省のレッドデータブックで絶滅危惧種IB類に指定。 分布の南限が東部地域でさらに北上したことが判明(山階鳥研)。 |
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辺戸岬の展望台(左)と国頭村出口の看板(右) |
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2004年 | やんばる地域ロードキル発生防止に関する連絡会議設置。 「ヤンバルクイナの日(9/17)」宣言(国頭村議会)。 ヤンバルクイナ保護増殖事業計画策定(環境省など)。 |
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2005年 | ネコの愛護および管理に関する条例施行(国頭村、大宜味村、東村)。 ヤンバルクイナ救命救急センター設置(NPO法人どうぶつたちの病院)。 沖縄県がマングース北上防止柵を設置。 |
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2006年 | 個体群存続可能分析に関する国際ワークショップ開催。 ヤンバルクイナ保護シェルター・観察小屋を設置(国頭村)。 環境省レッドリスト 絶滅危惧IA類。 推定個体数700羽と発表(山階鳥研) (→ ヤンバルクイナの生息域と生息数の減少(日本鳥学会2006年度大会講演要旨)。) |
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2007年 | 初めて飼育下繁殖に成功(NPO法人どうぶつたちの病院)。 交通事故件数23件で非常事態宣言。 推定個体数1000羽回復(環境省) |
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2009年 | ヤンバルクイナ飼育・繁殖施設が一部完成(環境省)。 | |
2010年 | ヤンバルクイナ飼育・繁殖施設完成(環境省)。 交通事故件数が30件を越え、非常事態宣言。 |
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2011年 | 発見30周年。30周年記念イベント「クイナの日まつり」開催。 |
新種を記載(特徴を記して学名を与え新種であることを宣言すること)する際には,記載のもとになった標本を「タイプ標本」として指定することが求められています。タイプ標本を指定することにより,後の研究で分類に疑いが生じたり,分類が変わったりした時でも,名前の混乱を最小限に食い止めることができるのです。古い時代にはタイプ標本を定めず,図と文章のみによる新種記載が行われたため,学名が混乱することが多くありました。タイプ標本を所蔵する博物館や研究機関などは責任をもってその管理をすることが,動物学者の間の国際的取り決めによって求められています。
(→ 所蔵名品から『ヤンバルクイナのタイプ標本』のページへ)