種の平均寿命は、化石の記録から計算すると、約200万年程度と推定されており、鳥類では200年に1種ぐらいが絶滅していたものとみてよい。ところが、人間が出現してからは、この状況は一変してしまった。1600年以降の世界の絶滅鳥類の記録を調べてみると、過去400年間で私たちは128種の鳥類を失っている。これは先に述べた地史的なスケールで自然界で生じていた絶滅の約60倍の速度で鳥類の絶滅が進行していることを意味している。
絶滅した128種すべての直接的な絶滅原因を特定できてはいないが、特定できたものでは、人間が持ち込んだ移入種が原因と思われるもの39パーセント、人間による生息地の破壊が原因と思われるもの36パーセント、人間の狩猟によるものが23パーセントであり、すべて人間活動によって絶滅に追い込まれている。今後この傾向はさらに加速され、2000年の国際自然保護連合のレッドデータブックから計算すると、わずか100年後の2100年には、絶滅の心配のある種類は450種を越えると予想されている(図)。
ところで、今年8月に、環境省は「改定・日本の絶滅のおそれのある野生生物」、いわゆるレッドデータブックの鳥類編を出版した(表)。絶滅鳥13種の中には、山階鳥研ともゆかりが深いカンムリツクシガモやミヤコショウビンも含まれているが、ダイトウウグイスについては復活の可能性もあり、更なる研究が期待されるところである。1991年度版レットデータブックで旧カテゴリーの絶滅危惧種(絶滅危惧I類相当)に入っていたアホウドリとタンチョウは関係者の努力で、個体数が増加したため絶滅危惧II類へとランクを下げたことは、研究と保護事業がいかに大切かを物語っているだろう。しかし、残念ながらリストを見ると悲しくなるぐらい希少鳥類の種数は多い。
こうした状況の中で、希少鳥類保全のために山階鳥類研究所が果たさねばならない社会的責任は大きい。そこで、平成13年度からは、科学研究費(特定奨励費)を文部科学省から得て、「希少鳥類の生存と回復に関する研究」を立ち上げた。これは、広くは地球環境、狭くは生息環境の中での鳥類の個体数増減にかかわるさまざまな要因について、群集レベル、個体群レベル、個体レベル、さらには分子レベルにわたって総合的に解明しようとする研究である。目的を果たすために四つの研究グループを設定したが、これらが相互にうまく関連し合うように、総括班を設け外部の専門家に検討・評価していただいているのも本研究の特徴のひとつである。それでは具体的にどのような研究が展開しているのか、次号から順次紹介していくことにする。
(研究代表者:山階鳥類研究所 所長 山岸 哲) ※役職当時
~山階鳥研NEWS 2002年10月1日号より~