前月号での山岸所長の説明の通り、日本の野鳥を巡る環境は、劣悪の一途をたどっている。私たち「遺伝的・生理的研究グループ」では、現在の危急の問題として、希少鳥類を中心とした日本の野生鳥類の「遺伝子ライブラリー」を立ち上げ、多種鳥類の遺伝子を保存することが、大きな目的の一つである。また、「遺伝子ライブラリー」に保存された遺伝子を用いて、希少鳥類の遺伝的特性を明らかにし、その成果を希少鳥類の保護に役立てる、というのがもう一つの目的である。
まず初めに、山階鳥研が「遺伝子ライブラリー」を立ち上げるのにどんなに最適な研究機関であるかを説明してみたい。
(1)(山階鳥研の)資料室では、毎年剥製標本を作ってコレクションを充実させているが、標本材料は日本全国から集まってくる。送られてきた鳥の死体の中で新鮮なものは遺伝子試料となる。昨年度はヤンバルクイナ、オオタカなどの死体を得ることができ、遺伝子用サンプルも得ることができた。
(2)標識研究室では、北は北海道から南は沖縄県まで、各地にある鳥類標識ステーションで、渡り鳥を中心に捕獲し、標識後放鳥している。捕獲の際に遺伝子試料を採取することが可能である。昨年度は鳥島のクロアシアホウドリ、今年度はアホウドリの血液サンプルを得ることができた。また今年度は、ノグチゲラのサンプルの入手も目標に入れている。
(3)標本室には約5万点の剥製標本が収蔵されているが、近年の遺伝子解析技術の発達にともない、羽毛1枚からも遺伝子の抽出が可能となった。絶滅鳥を含む山階鳥研のコレクションは、将来の遺伝子研究の無尽蔵の可能性を秘めている。今年度はオオタカ地域個体群の解析のために、剥製標本からの遺伝子抽出を計画している。
このように続々と遺伝子試料が集まりつつあるなかで、研究体制はどのようになっているかというと、本年度から京大大学院をでたばかりの浅井芝樹研究員を採用することができた。また最新のDNAシークエンサー(DNA塩基配列を解析する機械)を導入することができたので、浅井研究員が元気をだせば研究が飛躍的に進展するという環境が整った。私たちの研究グループの所内のメンバーは、柿澤・浅井研究員、山岸所長の3名で、下記9名の所外の研究協力者とから構成される。宮田隆・京都大学大学院教授(研究責任者)、小池裕子・九州大学大学院教授、山本義弘・兵庫医科大学助教授、鈴木仁・北海道大学大学院助教授、和多田正義・愛媛大学助教授、本田正尚・信州大学助教授、永田尚志・国立環境研究所研究員、西海功・国立科学博物館研究員、馬場芳之・九州大学大学院助手。これらの錚々たる所外メンバーに、筆者と浅井研究員とでは気おくれしてしまいそうだが、そこらへんのところを山岸所長に締めてもらって、船が山へ登らないようグループの舵を取ろうと思っている。
(山階鳥類研究所 研究部長 柿澤亮三)※役職当時
~山階鳥研NEWS 2002年11月1日号より~