科学研究費を受けておこなっているこのグループの活動は、大きく分けて標本と図書の仕事があり、それぞれ大きく収集とデータベース化に分けられる。所内の部署としては、資料室がこのグループの仕事を担当している。
標本に関してはまず、どうして「希少鳥類の生存と回復」のために標本の収集が必要かという疑問に答える必要があるだろう。その理由はひとつには、希少鳥類の保護も含めたすべての研究の基礎となる分類学のために標本が欠かせないということがある。日本の鳥の分類は一見安定しているようだが、種より一段下のカテゴリーである亜種レベルの分類ではまだまだ検討の必要が多い。また、野外での観察や捕獲による生態研究のためには羽色等による年齢や性別の査定の知識が欠かせないが、こういった知識も日本の鳥では蓄積が足りないものが多く、標本による研究の余地が大きい。これは誰でも名前を知っているような希少種でもやはり同様なのである。しかしながら、ことに希少鳥類については、研究目的とはいえ新たに採集して標本を作成することは保護の上からは極力控えるのが望ましいので、拾得斃死鳥体を有効利用して研究用標本を作成することが重要となる。
資料室では平成13年度および平成14年度の平成15年3月10日現在、作成中のものも含めると合計223点の研究用剥製標本を作成しているが、このうち29種亜種89点の希少種および島嶼産の亜種に属する個体の標本を作成することができた(表)。これらのほとんどは、各地の個人や保護センター等の施設から寄贈された斃死鳥体および動物園から寄贈された死亡鳥体から作成されている。なお、島嶼産の亜種には分類学的な再検討の必要があるものが多く含まれ、分類研究の進展と生息地の環境変化などによっては希少鳥類に仲間入りする可能性もある鳥たちである。
標本を作成した鳥体は原則としてすべての個体からDNA分析用の組織サンプルを採取して「遺伝子ライブラリー」に保存している。系統研究の世界では、あるDNAをもつ個体がどのような姿形をしているかがわかるための形態的な「証拠標本」の保存の重要性が言われている。同一の個体からのDNAサンプルと、対応する形態学的な標本の両方を保存している山階鳥研では、特定の対象種だけでない一般的な収集を目指していることとあいまって、その優位性を生かした研究が今後可能になってゆくと思う。
標本は、ただ集めればよいというものではなく、万全な保存をはかるとともに有効な利用を促進することが必要である。このために、標本のラベルデータのデータベース化を進めている。山階鳥類研究所には69,000点の研究用標本があり、上記のように現在も収集を続けているが、これらの標本の種名、採集地、採集日等のデータが一覧できるように、現在入力を進めている。
図書については、鳥類学全般および関連分野の単行本・学術雑誌・視聴覚資料等の収集を進めている。希少種の保護研究のために、研究員および共同研究者が鳥類全般について既往研究の知識を活用できることが欠かせない。そこで、所員からのリクエスト等をもとに、所内の図書購入検討委員会を設けて単行本と学術雑誌等を選定して購入している。また、有効利用のためのデータベース化は標本と共通の課題で、現在、著者名、書名、発行年、出版社名等の書誌事項の入力を進めている。
グループの所内メンバーは、柿澤・鶴見・百瀬・平岡・紀宮の各資料室員からなり、所外から、藤野幸雄・図書館情報大学名誉教授(統括責任者)、森岡弘之・国立科学博物館名誉研究員に参加いただいている。
(山階鳥類研究所 資料室 標本担当 平岡 考)※役職当時
~山階鳥研NEWS 2003年4月1日号より~