ヤンバルクイナ その命名・生態・危機

コラム

2024年4月1日掲載

ヤンバルクイナ野生復帰の試み

副所長 尾崎清明

沖縄島北部のやんばる地域では、外来種マングースなどの侵入によって減少した希少固有種ヤンバルクイナの保護増殖事業が進められています。山階鳥研は、飼育下で繁殖させたヤンバルクイナの野生復帰技術を評価するための追跡調査を実施しています。

環境省の飼育繁殖施設で人工繁殖させた個体を年間8羽程度、野外に放鳥し、その地域に生息する野生のヤンバルクイナと生存率や繁殖生態を比較します。調査は2014年に始まり、これまでに3ヶ所で合計89羽を放鳥しました。また、同期間に周辺で野生個体を55羽捕獲し、いずれも小型電波発信機を装着して追跡を行いました。

写真:人工繁殖させた個体の放鳥

人工繁殖させた個体の放鳥

その結果、飼育放鳥個体は野生個体に比べると放鳥初期の生存率が低く、その原因はハブやネコ、カラスなどによる捕食にあることがわかりました。そこで人工繁殖個体を放鳥前に広いケージで自然に近い環境の中に置いて、外敵の模型などで馴化(じゅんか)訓練を実施したところ、生存率の向上が見られました。また、飼育放鳥個体の中には、放鳥場所から相当距離移動(最大9km)するものも確認されました。

さらに、飼育放鳥個体が野生下で繁殖を開始することも確認され、ペアの組み合わせも放鳥個体同士だけでなく、野生個体との間でも繁殖成功に至っています。ただし、その例数もまだ限られているので、今後さらに飼育や馴化訓練の方法に改良を加えていきたいと考えています。

写真:飼育放鳥個体同士の野外での繁殖

飼育放鳥個体同士の野外での繁殖(親鳥の下にヒナが2羽見える、右上に拡大して矢印で示す、JAC 環境動物保護財団の助成金による自動カメラで撮影)

この調査は環境省や文化庁の捕獲許可を得て、環境研究総合推進費、生物多様性保全推進交付金、環境省の業務委託のほか、2023年度からはJAC環境動物保護財団の助成金を受けて実施しています。死因の究明には、NPO法人どうぶつたちの病院沖縄と国立環境研究所にご協力いただいています。

(文 おざき・きよあき)

山階鳥研ニュース 2024年3月号より)

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